障がいを持つ子の「親亡き後問題」への対応方法

障がいを持つ子の親として最も不安になっていることは、自分達が亡くなった後の子の行く末のことだと思います。いわゆる「親亡き後問題」として、取り上げられてきた問題です。2019年の障がい者白書によると、障がい (精神障がい、知的障がい、身体障がい) がある人は、約963万5000人ということです。今後、多くの方にとって身近になってくる問題です。

障がい者の日常の支援は、通常、その親が担っていることが多いと思いますが、親自身が高齢になっているため将来への不安が高まっています。特に、「自分が亡くなった後の子の面倒について誰が行ってくれるか」という点が大きな心の負担となっています。

障がい者支援の仕組みは、行政でも色々な施策が展開されています。国、都道府県、市町村において様々なサービスメニューが用意されています。また、民間のNPO法人でも支援活動を展開しているものが多くあります。その為、高齢夫婦だけで悩まずに、まずは行政の窓口等に相談されることが大切です。多くの場合、色々な施策の中から障がい者の状況に応じた対応方法が提示されると思います。一人で悩まないで、まずは相談することだと思います。

ところで、親の中には自分の持っている資産を障がいを持つ子のために活用したいと考えている方も多いと思います。そのために、自分が亡くなった後、障がいを持つ子が安心して生活できる財産基盤を早めに作りたいと考えていると思います。

「親亡き後問題」への対応として利用できる財産承継制度は色々あります。主なものを次に紹介します。

◆特定贈与信託

特定の要件を満たす障がい者(=特定障害者)の生活の安定を図ることを目的に、親などが金銭等の財産をその障がい者に贈与すると同時に信託銀行等に預け、信託銀行等がその財産管理を担う仕組みです。

具体的には、親が信託銀行に金銭を預け入れ、信託銀行が預けられた金銭を定期的に障がいのある子に給付する制度です。信託銀行が年金のように給付するイメージです。親が亡くなった後も財産のある限り給付は継続されます。

この制度の大きなメリットとして、親から子への贈与税が大幅に免除される(非課税になる)ということです。障がい者の障がいの程度によりますが、障がい者一人につき金6,000万円又は金3,000万円を限度として贈与税が非課税となります。

◆成年後見制度 

判断能力の乏しい本人に代わって、「法律で認められた法定代理人」として財産管理・法律行為の代理・身上監護を担うという制度です。

ご本人に契約能力があれば、親族などを後見人に指定することのできる「任意後見」制度もありますが、通常は、障がい者が自ら好きな後見人を選んで契約することが難しいため、家庭裁判所が後見人を選ぶ「法定後見」を利用するのが一般的です。最近は親族が成年後見人に選任されることも多くなっていますが、弁護士や司法書士等の専門職後見人が選任される場合も多くなっています。

弁護士や司法書士等の専門職が選任されると報酬(月額2~3万円程度)が必要となります。成年後見は、障がい者が亡くなるまで継続し、途中で終了することはできません。

◆家族信託(契約信託・遺言代用信託) 

自分が持つ財産を信頼できる家族等に託し、財産の管理・運用・処分・給付を任せる財産管理の仕組みです。親亡き後問題に活用する場合は、例えば、親が障害のない子に財産を託して、障がいのある子の面倒を見てもらうような活用方法があります。兄弟で障がいのある子の面倒を見られるようにするのです。

具体例としては、父親が財産を家族の1人 (例えば、長女) に信託し、託された長女が財産管理を行います。財産の名義は長女に移されます。長女は、信託された財産を管理・運用し、得られた収益を信託契約で受益者として指定された者 (例えば、障がいのある長男) に定期的に給付します。

<家族構成例>
高齢の夫婦には、3人の子供がいます。長男は、障がい者です。夫婦には自宅と金融資産があります。

父親を委託者、長女を受託者、長男を受益者として信託契約を締結して、父親は長女に財産を信託します。信託された財産は長女名義にされ、長女は財産の管理・運用等を行います。得られた収益は父親が存命中は父親に給付し(1次受益者)、父親が亡くなった後は障害のある長男(2次受益者)に給付します。なお、長女名義とされた財産は、長女自身の財産とは明確に区別されたものとなります。(ex.預金は信託口に預け入れる。不動産は信託されたものであることが登記される。)

◆遺言信託 

遺言書の中で前述の信託の仕組みを設定し、遺言者の死亡を契機として発動する財産管理の仕組みです。親が存命中は、自身の財産は自分で管理したい場合に活用できます。親は家族信託を組成する内容の遺言書を作成します。

親が亡くなった後は、遺言書の内容に従って家族信託を組成します。親の財産を受託者である長女に移し、長女は財産を管理運用して、収益を障害のある長男に給付します。父親は既にいませんので父親への給付はありません。

◆生前贈与 

親が障がい者の生活・医療・療養の資金としてまとまった財産を予め障がい者本人に渡しておく方法です。本人の財産管理が困難な場合は、兄弟姉妹などへの贈与となります。この場合は、障がいのある兄弟の扶養や支援をすることを条件に贈与しますので「負担付贈与」になる場合が多いと思います。生前贈与の場合は、贈与税が発生しますので注意が必要です。 

◆遺言 (遺贈) 

障がいのある子に親の財産を相続させるために遺言書を作成する方法です。本人の財産管理が困難な場合は、兄弟姉妹などへの遺贈となります。この場合は、障がいのある兄弟の扶養や支援をすることを条件に財産を相続させる「負担付遺贈」となることが多いと思います。

これ以外にも対応方法は色々あります。また、制度の単独での活用ばかりではなく、各制度の組合せ (Ex.特定贈与信託+遺言+任意後見) も選択肢として考えられますので、必要な場合は専門家の方とよく相談されることをお勧めします。

「親亡き後問題」は親の高齢化により時間との勝負になる問題です。早めの対応策の検討が必要ですので積極的に解決方法を探し出してもらいたいと思います。

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